【小説】初春の令月に【SS】
朝だ。
いつもと何の変わりもない朝。
だけど、今日は———
カンカンカン…
「〈官房長官〉!〈官房長官〉〜!早く起きないと新元号発表会見に遅れ…って、なぁんだ、起きてるじゃないの」
「……ったく〈官房長官の幼馴染〉…、窓から入って来るなっていつも言ってるだろ」
「はいはい、わっかりましたよーだ。で?とっくに起きてるのに、なんでまだ布団にくるまってるワケ?」
幼馴染からの問いに、俺はムスッとした声で答える。
「…………から」
「え?」
「ツイッターで、5chで、インターネットで!ネタにされるのが目に見えてるからだよ!
今日までの流れでわかるだろ…?天皇崩御に伴わない改元で世間は大盛り上がりだ。どこを見ても、元号大喜利、元号大喜利…。どうせ、新元号の発表パネル文字部分をコラしたり、新元号発表会見の音MADが作られたりするんだ。ハハ、笑っちまうよな。…なんで俺がそんな目に遭わなきゃいけないんだよ。ただの、普通の、官房長官なのに…!」
「……〈官房長官〉……」
思わず声を荒げてしまった。〈官房長官の幼馴染〉は何も悪くないのに。自己嫌悪に陥る。くそっ。やっぱり、俺は……
ビシッ!!!
!?
「いってぇ!なんだよ〈官房長官の幼馴染〉、
いきなりデコピンなんて…」
「ふふ、その顔」
「…は?」
「そのくらい元気じゃないと、いつもの〈官房長官〉らしくないぞっ。たしかに、ネタ画像にも、コラ画像にもされるかもしれない。けど…だからこそ、〈官房長官〉の一番イイ表情、国民全員に見てもらうチャンスじゃない?変にカッコつけようとするからキンチョーするんだよ。しっかり者だけど、ちょっと抜けてる。全部ひっくるめて、〈官房長官〉の良いところじゃん。わたしは、そんな〈官房長官〉が…今の〈官房長官〉が、一番イイと思うな」
そう言って〈官房長官の幼馴染〉はニコリと笑う。
ああ、そうだ。こいつはいつもこうだった。
底抜けに明るくて、俺の行く先を照らしてくれる——
「ったく、他人事だと思って…」
思わず笑みがこぼれる。
「…そうだな。やってやろうじゃねーか。最高の、新元号発表会見をよ……!!!」
(会場)
ザワザワ…ザワザワ…
「官房長官はまだか!」「早く次の元号を!」「一番早く報道するのはウチの会社だ!」
ザワザワ…
スポットライトの当たる壇上から報道席を見渡す。幾多もの視線とカメラを向けられて一瞬怯んだが、
………そうだ。これが——“今”の俺だ。
「お待たせいたしました」
緊張で震えそうになるのを抑え、威厳を保った声で言う。
「新しい、元号は———………!!
〜fin〜